《本のレビュー》 『博士の愛した数式』 小川洋子

 本屋さんの文庫本コーナーで、この本が私を呼んでいました。ですから買ってみました。

 数学の本、ちょっとしたブームではないでしょうか。この本は2003年に賞をもらった本。そして翌2004年には「ダ・ヴィンチ・コード」が。いずれも、数学が題材に使われたベストセラーですね。ダ・ヴィンチ...は娘が上下巻とも読んだようです。僕は3週間もかかってこの300ページにも満たない文庫本をやっと読み終えたところです。

画像 数学は美しい。僕もそう思っている一人です。3の2乗と4の2乗を加えたら5の2乗になるなんて、傑作ですよ。8:5の黄金比の美しさ。そしてこの本で知った友愛数。これは呼び方からして美しいですよね。一方、物理は、現実の世界を追っているはずなのに理想が混ざってくる。化学は異常なものの存在をいとも容易く認めすぎる。生物は、地学は。理科の悪口ならいくらでも出てきそうです。それに対して、数学は美しいのです。

 小説としては、この数学の美しさに感化された老数学者、彼は交通事故で、記憶が80分しかもたないのです。その博士のところに通う、20代後半の家政婦である”私”。その私生児である小学生の”ルート”。さらに、博士がまだ普通だったときに、倫理に問題のある仲となってしまった義理の姉。この限られた登場人物が実によくヴィジュアルが迫ってきます。それも美しい。

 全く関係ないのですが、音楽も美しい。それは奏でられる音楽そのものが美しいのと、楽譜のもつ美しさ。曲を書いた人が楽譜に埋め込んだ謎。それらを見たときに、私は楽譜が「こう演奏してね」と言っているように見えます。不思議とそれは理に適っているのですね。音楽は数学と通じるものがあると思います。


【写真】 博士の愛した数式 ・・・・・ 小川洋子(1962生)著

この記事へのコメント

aosta001
2006年02月27日 06:41
おはようございます。
 小川洋子さん、芥川賞を受賞した「妊娠カレンダー」以来のファンです。
 「博士の愛した数式」にしてもそうですが「シュガー・タイム」「薬指の標本」「ホテル・アイリス」なっど、彼女の一連の作品には奇妙な喪失感、欠落感があります。
それはときに記憶の欠落であり、身体の欠落でもある。彼女の作品の中に精神的にも、身体的にも健やかで健全な「主人公」は登場しないように思います。
 彼女自身の「変わったもの、過剰なものに魅かれる」という言葉にあるように、彼女の作品の登場人物は「失っているか過剰に過ぎるか」どちらかであり、危ういバランスをたもっているようにも見えます。
aosta001
2006年02月27日 06:54
美しい言葉と、緻密な文章、やわらかく静謐なその小説世界。
写真で見る限り「絵に描いたようなお嬢様」然とした小川さんですが、その一方で、どきりとするような官能的な世界を持っている人です。
 「ホテル・アイリス」の初老の男と少女との、奇妙な、それでいて鮮烈な愛の交歓。社会やすべての人間関係を拒絶するような、二人だけの濃密な愛の時間。
愛の痛みと喜び、この作品を読んでいると、どこか身体的な痛み、眩暈さえをさえ感じてしまういます。
「博士の愛した数式」における愛の形とは対極にあるものかもしれませんがこれもまた「小川洋子」なのです。
 「異常」とされていることをさえ、美しく柔らかな、そしてどこか怖い物語へと変えていく小川洋子という作家、平野敬一郎、中沢新一とならんで今一番関心のある人です。

蛇足ですが,数学者の藤原正彦さんと小川洋子さんの対談集「世にも美しい数学入門」(ちくまプリマー新書)という本が出ています。
これ、面白いです。気が向いた方はどうぞ!
2006年02月27日 07:08
◆◆ 危ういバランス... aostaさんへ

 おはようございます。お久し振りですか?
 さすがに何冊も読んでいらっしゃるのですね。そうでないと、こういうコメントは書けません。そうですか、この作品では、博士は記憶を失っている...というか、80分前から過去のことを覚えていない。きっかり80分といううのがいかにも数学博士というところでしょうか。

 もう一歩踏み出してしまったら、危ういバランスは崩れてしまいそうな感じがしますね。
2006年02月27日 07:15
◆◆ 数学者の藤原正彦さん... aostaさんへ

 彼が文庫本発行の時に、この本の解説を書いています。小川さんの熱心さにやはり驚いた様子。彼は小川さんに数学を舞台にした小説が書けるだろうか、はなはだ疑問に思っていたようですが、その美しさを見事に書ききったことについて、賞賛しています。そんな小川さんを「やはり、女性は恐い。」と結んでいるのは、僕の数学者感によく当てはまります。女性よりも数学の方がはるかに美しいと思っている人たちですから・・・。(笑)
aosta001
2006年02月27日 09:24
「数学者の物語」といって、私が思い出すのはラッセル・クロウ主演の映画「ビューティフル・マインド」があります。
 天才的な数学者ジョン・ナッシュの半生を描いたこの映画でも、主人公のナッシュ博士は精神的な均衡を失っていきます。
現実と非現実のあわいを行きつ戻りつするナッシュを支えたのは、彼の「天才」を信じ続けた
ナッシュ夫人であり、その愛に応えるために、精神的な極限状態を戦い抜いた彼自身であったと思います。
 精神の破綻をきたした彼が、夢中でガラス窓に書き付ける「リーマン仮説」の数式。
数字と記号の羅列であるその数式の視覚的な美しさ。そしてついに、その仮説の秘密を解き明かしたとき、若々しく、未来への希望と野望にあふれていたかつてのナッシュは、静かな表情をした老いた男になっていました。
 後に、彼はノーベル賞を受賞します。数学のノーベル賞はないので、彼の「均衡理論」を評価した経済学的な視点での受賞だったと思われるのですが、その授賞式での彼の言葉がなんとも、心に残るものでした。
クララ
2006年02月27日 10:10
「博士の愛した数式」
読んで良かったと思いました。
aostaさんのコメント見せていただいて,さらに小川洋子さんの本読みたいと思いました。残念ながら図書館ではまだ見つけていません。
私の住んでいる界隈では購入本の場合、数件を行き来します。「博士の・・・」も何処かに?
こういう読み方って面白いですよ。自分では手を出さないであろう作家にはまったり、図書館でお目当てのものが無い時には、目が合った本を選ぶなんてね。
まぁ、時間のたっぷりとある我々の楽しみ方です。
2006年02月27日 12:04
◆◆ 読んで良かったと... クララさんへ

 読まれたのですね。
 僕の読後感では、何だかぽあ~んと暖かな気持ちになりました。aostaさんの仰るギリギリのアンバランスさという情景ではあるのですが、落ち着いた気持ちになれる本でした。

 クララさん、人生を本当に謳歌されていますね、うらやましいです。
aosta001
2006年02月27日 12:26
あやういバランス、とは小川洋子の小説全体に流れているトーンであり「博士の愛した数式」がアンバランスの上に成立しているという意味ではありません。 
 というか、「危ういバランス」はそれで、バランスが取れているのであって、「アンバランス」ではないのです。
 小川さんの作品はたとえばこの「博士の愛した数式」や「ブラフマンの埋葬」といった作品にみられる穏やかな安寧に満ちたものと、「ホテル・アイリス」「沈黙博物館」「薬指の標本」といった、どこかエキセントリックな作品とがあります。 (どちらに属する作品においてもその、静かな空気、穏やかな会話、たんたんとした展開は変わりません。)
aosta001
2006年02月27日 12:26
藤原さんの言われた「やはり女性は恐い」という言葉はむしろ、この二つの世界を自由に行き来する小川洋子のしたたかさを指しての言葉
だったのではないかとも思うので合うが・・・
最近つくづく思います。「書く」という作業は身を削ること。(もちろん「書くこと」を生業としている場合のことですが)
男性であれ、女性であれ、身を削るしたたかさがなければ、読む人の心を動かすものは生まれてこないのだと思います。
 そのようにして生まれてきた作品がこのごろは少ない。みなおためごかしの「売れ筋ねらい」ばかり。その中で「本物」を発見したときの喜びはまた格別なのですけれど・・・
2006年02月27日 12:35
◆◆ アンバランス... aostaさんへ

 僕の間違いです。
 「ぎりぎりのバランス」でした。
2006年02月27日 12:38
◆◆ 二つの世界を自由に... aostaさんへ

 おっしゃる通り。
 今日は一本とられっぱなしで、とほほです。
 シリーズ存続の危機かも! (笑)
クララ
2006年02月27日 18:45
読んでよかった読後感とは、まさしくPapalinさんの仰る「ぽあ~んと暖かくなった」気持ちです。
結構おどろおどろ系を読んでいたので、読み終わって、爽やかになりました。
「四日間の奇跡」この本も爽やかな読後感でした。
sakura
2006年02月27日 21:38
こんばんは。
>3の2乗と4の2乗を加えたら5の2乗になる

ほんとうだ~。考えたことなかったけど でもどうして?
2006年02月27日 22:52
◆◆ 授賞式での彼の言葉... aostaさんへ

 え、これでコメントが終わりですか?
aosta001
2006年02月27日 23:29
Papalinさん、
 小川洋子の作品「やさしい訴え」はもう、お読みでしょうか?
 森の中でチェンバロを作る男と彼をめぐる二人の女。こう来れば、果てさて三角関係?と思うのは世の常。そして確かに「三角関係」なのですが、この「三角」の頂点の一つは人ではなくチェンバロなのです。
 チェンバロという楽器とチェンバロつくりの男に、あるときは一人の女が絡み、またあるときはもう一方の女が絡む。
もしくはチェンバロと女二人の三角関係。
物語の背後にはいつの涼しげなチェンバロの響き。
 ◆ラモー  「やさしい訴え」
 ◆クープラン「やさしい恋わずらい」「葦」
 ◆デュフリ 「メヌエットハ短調」「アルマ        ンド」
 こんな曲名を聞いただけで読んでみたくなりませんか?
小川洋子が書くと「三角関係」も、どろどろしたものではなくどこか悲哀と憂いを帯びた物語になってしまいます。
 彼女の作品の中では「博士の愛した数式」と並んで、あまり癖のない素直な作品だと思います。
2006年02月27日 23:56
◆◆ ぽあ~んと暖かく... クララさんへ

 あぁよかった。同感してくださって。この本のテーマはあくまで悲哀のように思うのですが、暖かく感じたのはなぜでしょう? 数学者には、博士のような、"普通"ではない人物像がお似合いで、その博士がぽあ~んと暖かいからかな。
2006年02月28日 00:06
◆◆ 考えたことなかった... sakuraさんへ

 あの~、sakuraさんの出身高校は、僕が憧れていた高校であり、その高校ご出身のsakuraさんの発言だとすると、sakuraさんは高校に通われていたのかどうか.....まぁいっか。(笑)

 3**2 + 4**2 = 5**2 ・・・・・ 美しい!
2006年02月28日 00:18
◆◆ 「やさしい訴え」... aostaさんへ

 小川洋子、これが初めて読んだ本なので、これから開拓しようかというところです。今回の「博士が...」で、作者の綿密な取材と、手に入れた知識の消化力が人並み外れていることがわかりましたので、チェンバロをめぐってのお話となると、興味がわきますね。

 aostaさんの住んでおられる原村や富士見には、芸術家も何人か暮らしてます。チェンバロを実際に製作されている方もいます。芸術に溢れた村と町・・・ですね。
2006年02月28日 08:47
ビューティフル・マインド
博士の愛した数式
いずれも、それぞれに、美しく
いい映画、いい本でしたね!
aostaさんもPapalinさんも、さすがさすがですね!
aosta001
2006年02月28日 09:38
>授賞式での彼の言葉...え、これでコメントが終わりですか?

 Ppalinさんが気になっていらっしゃるご様子なので、書きましょうね。
 『私は常に数字を信じてきました。道理に結びつく方程式や理論もそうです。でも、私は間違っていました。どんな理論や道理も、愛の神秘的な方程式の中にしか見つけられません。
美しい精神を持っていることはいいことかもしれません。しかし美しい心を発見するほうがよりめぐまれているように感じます。
 こんなにも、長い間、私を信じてくれてありがとう。君がいてくれたおかげで、私は今日ここに来られた。
 君のおかげで、私は存在している。』

このメッセージは授賞式での公のスピーチの中で、長年彼に付き添った妻アリシアに対して向けられた、感謝と彼女への愛の言葉です。
 特に最後のひとこと、原文ではこうなります。
 "You are the reason I am."
2006年02月28日 18:10
◆◆ さすがさすが... takasiさんへ

 僕はたまたま本屋で見つけて読んだだけです。aostaさんのような、読むための背景もなにもありません。でも呼ばれちゃったので仕様がありません。(笑)
2006年02月28日 18:17
◆◆ You are the reason I am. aostaさん

 素敵な言葉ですね。僕もこんな言葉をMamalinにもらったら卒倒しちゃいますね。ねぇ、今晩遅くまで見ていてご覧。きっとdogachanが夜な夜な現れて、この一文をパロディるから。(笑)

You're the reason I love. なんてどう?
sakura
2006年02月28日 21:46
こんばんは。
あまり意味のない質問でしたね。ごめんなさい。

ところでブログTOPで使われているイラスト Mamalinさん作ですか?ほのぼのした雰囲気が素敵☆
「You're the reason I love.」って感じかな。
doga yuigon
2006年02月28日 22:55
僕は常に君の愛を信じてきました。
道理に合わない態度や口論もしょっちゅうでした。
でも、僕は信じていました。
どんな口論や喧嘩も、愛の神秘的な力の前では、必要だと。
誰も真実の愛を達観することは不可能なのです。
美しいルックスを持っていることはいいことかもしれません。しかし、美しい純粋な愛する心を発見できたことが、きみをより愛すことが出来たように感じます。
 こんなにも、短い時間だったけど、僕を愛してくれてありがとう。君がいてくれたおかげで、僕は今、永遠に眠れる。
君のおかげで、僕は生きた証ができた。

僕が死ぬ時の「遺言」として妻に捧げます。

(パロディのつもりが・・・マジになった・・・)
2006年02月28日 23:07
◆◆ イラスト Mamalinさん作... sakuraさんへ

 ピンポ~ン。彼女は絵の天才。僕は音楽の天才って自分で言うか~? 漫画だけでなく、水彩画も油絵も描きます。どちらかというと、こってりタイプの絵。でも上手いと思います。

 意味のない質問ではないですよ。数学の美しさに魅せられた感想でしょう? いいじゃないですか。とってもいいじゃないですか。
2006年02月28日 23:20
◆◆ doga yuigon... dogachanへ

 これは冗談きついよ。せめて、doga kanokeくらいにしておこうよ。(笑)

 期待を裏切らない男だよね~。本当にいい人で通ってますよ、このブログでのdogachan。とても恋敵から嫁さんを奪い取った人とは思えませんわ。

 読んでいるうちにわかりました。マジになってきているのが。でも、そのときは、もっとパロディるよ、きっと。

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