◆IL DIVO◆ われらここには、とこしえの地なくして (ドイツ・レクイエム)

≪生演奏を公開しています≫

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Denn wir haben hie keine Statt
URL : http://papalin.yas.mu/W508/

  ◇公開日: 2010年8月12日
  ◇演奏時間: 11分20秒
  ◆録音日: 2010年8月 (49歳)
   上のアルファベットの曲目名を
    クリックして、Papalinの音楽サイト
    からお聴き下さい。(視聴?・試聴?)



段々と演奏するのが難しくなっていっくのが、
ドイツ・レクイエムの特徴かも知れません。
第6曲の演奏には少々手こずりました。
伴奏が難しかった、長かったです。(^_^;)

相変わらずフーガは健在です。
音楽がより劇的になっていくのがわかります。

4分47秒くらいから、調を変えて2度登場する男声と女声の掛け合いのところですが、似たような音楽を現代でも耳にします。定番のコード進行、定番の音楽手法なのかも知れません。こんなにも昔のブラームスも作曲に使っていた"技"なのですね。この箇所を歌っているときには、今がずっと永遠であればいいと思うのです。もちろんそれは、最初に録音した最低音のパートを演奏しているときから感じることなのです。凄いパワフルな曲です。



というわけで、感動に浸っているのも束の間、今日はふっと我にかえって、技術的な裏話をしましょう。Papalinが一体どうしてこうした作品を創りあげていくか、その裏話をします。

【 Papalinの多重録音方法 】

一人で多重奏をする方法は、僕という個人であっても様々なのです。簡単にいうなら、旋律から録音を開始することもあれば、伴奏から録音していくこともあります。伴奏の録音の順序も常に一定ではありません。では一体このブラームスのドイツ・レクイエムは、どうやって創造していったのでしょうか。もったいぶらずに、種明かしをしましょう。



一番最初に録音するのは、例外なく"指揮者"です。今どきの多重録音機は、トラック数が豊富です。指揮者のために1トラックを占有させることができます。その指揮者なのですが、これはリアルの音楽と全く同じで、指揮者が音楽の骨格を決定付けてしまうのです。テンポ、テンポの揺らぎ、リタルダンド、フェルマータ、ポーズ・・・、そういったものは全てこの指揮者に委ねられているわけです。ですので、指揮者を"録音"する際には、最新の注意が必要です。もちろん、ここはこうしたいという強い意志がないと、指揮者は務まりません。ですので、事前にそれなりに譜読みをします。ルネサンスやバロックの曲を演奏する際には、メトロノームに指揮者を委ねることもあります。でも、一見無機質になりがちなメトロノームに合わせての演奏でも、小節の中で揺らぎをつけたりして音楽らしく持っていく術は身につけました。ですので、midi音源の音楽とは違いますでしょう? 話がそれました。ブラームスの音楽では、指揮者をメトロノームに譲ることはできません。ですので、指揮者は一生懸命に知恵を振り絞って、"こうしよう"と決断するのです。ところで『こうしよう。』と決めている段階では、頭の中での作業なのですわ。指揮者の重要な使命は、それを音で演奏者に伝えることなのです。リアルでの指揮者は音も言葉も発しません。ところが、パパルテット(Papalinによる多重奏)では、それはご法度です。IL DIVO Papalinのサイトでは映像がありませんので、あくまで"音"で指揮をしなくてはなりません。これがPapalinの多重録音の極意でもあり、企業秘密でもあります。別に隠しておきたいわけでもないのですが、最も言葉にしにくいところといって良いでしょう。

さて、指揮者が出来上がりますと、次は、伴奏の最低音を録音します。Papalinは、バロック音楽で育った"山の音楽家"なので、どうしてもベース音から録音したいのですね。おそらく IL DIVO Papalin の9割以上は、この順序で録音したものです。ベース音で最も注意すべきことは、指揮者と喧嘩をしないことと、音程を正しくとることです。この後者の音程を正しく・・・というのが曲者でして、ドイツ・レクイエムのようなオーケストラものを演るときには、最低音は僕の持っている楽器の中で最低音のでるもの、すなわちコントラバス・リコーダーを使うわけですが、そのコントラバス・リコーダーの音程の癖を身体に染み付けなくてはなりません。キュングのコントラバス・リコーダーをこんなにも吹いているのは、世界で僕が一番かも知れません。やっとその癖がわかってきました。癖をしり、対処方法を技術的に確立し、それを練習(IL DIVO Papalinの本番というケースが多いですが・・・)でもって身体に染み付ける・・・こうした"努力"で、指揮者の次に重要な、最低音パートを録音するのです。

さて、不満も常に存在するところですが、そうそう不満ばかり言っていますと作品が出来上がりませんので、次のパートに取り掛かります。次は何のパートを録音したと思いますか? 答えは、伴奏パートの最高音パートです。合唱でもそうですが、いわゆる外声(最低音パートと、最高音パート)は、人間で言うなら、骨格を決定づけるものなのですね。なので、最低音パートの音を聴きながら、でも合せにはいかずに、ソリストのつもりで最高音パートを演奏録音します。このときにいちばん困るのが、最高音パートの楽器はうるさいので、最低音パートの音や、指揮者の"音"が聴こえなくなるんですね。とくに音楽の佳境にきたときなんかは、大抵において音を伸ばしすぎてしまいます。そうしたときは、先に録音完了した最低音パートや、指揮者から、冷たい視線の叱咤があります。仕方なく、再録音とあいなります。

続いては、内声を埋めていきます。今回のドイツ・レクイエムでは、今日演奏した第6曲まで、ずっとリコーダー四重奏(4つのトラック)を守り通してきました。ですので、内声として、2つの音(音形)で埋めていきます。近頃の多重録音機は、パンチイン/パンチアウトという便利な機能があるので、一つのメロディ・ラインを、いくつかの楽器でつなげて演奏録音することができます。この機能がもしなかったなら、Papalinが1990年代に録音したような、それこそSP盤のレコードのための演奏かつ同時溝堀りのようなことしかできません。技術の進歩は、演奏者を怠慢にさせますね。



こうして伴奏が完成しますと、大抵はここで一服します。たった1~2分の喫煙時間にどう歌おうか、方針を立てます。伴奏を録音しているときも、当然のことながら、歌のパートを意識しています。ですので、歌の方針は自然と生まれてくるものでもあるのですね。そうしたことを考えながら、足早に一服を済ませます。そして、イメージが冷めないうちに、まず合唱のバスを歌います。バロックの音楽ですと、合唱のバス・パートは大抵通奏低音と重なって、歌うのは楽なのですが、ブラームスともなりますと、オーケストラと合唱は、低音部も別のことをしています。例を挙げますと、第3曲では、オーケストラの低音部は、Dの音をずっとい続けていますが、合唱のバス・パートはもっとメロディアスな歌を歌っています。そうした、バロック音楽にはないコンフリクトなんかを楽しみながら、バスパートを録音します。

次は・・・アルト・パートを録音します。その理由は極めて単純です。アルト・パートは、実音ではなくて1オクターブ下の男声で歌うものですから、ほぼバス・パートと同じような音域になります。僕は声帯が弱いので(=歌い方ができていないので)、高音のパートを歌い続けると、低音が出なくなってしまいます。ですので、早めに歌ってしまおうと、そうした理由から順番が決まったわけです。ちょっと情けない話です。

次は・・・ソプラノを歌います。その理由は、下2声が入りますと、ソプラノがちょうど気持ちよく乗っかれるのです。これまた、たわいもない理由ですみません。

最後に、テナー・パートを吹き込みます。理由は、多分一番慣れていて歌いやすいだろうから、色んな音が混じっても、わが道を行けるだろう高をくくっているのと、最後にテナーの声を張り上げて、気持ちよく終わりたいという、全くもってエクスタシー症候群なのです。

忘れていました。ソリストのパートがあります。ソリストは、こうして重ねた最後に歌うこともあれば、伴奏の録音が終了して、一番最初に歌うこともあります。気まぐれです。

ということで、Papalinの多重録音の奥義は、全員が指揮者を信頼して、指揮者に合わせるのです。ヘッドフォンをかけて、指揮者の"声"に神経を集中するのですが、音は他のメンバーの音(特に音程)に耳を傾けて重ねていくのです。え、目ですか? もちろん楽譜を追っていますが、残念ながらあまりよく見えていません。(^_^;)



そうそう、第6曲のことについても、何か書いておかねばなりませんね。

この曲にはシンコペーションが登場します。
ブラームスの時代の作曲家がシンコペーションのリズムを用いるとき、
そこには、特別な思いが込められているようです。

(’-’*) フフ




伴奏楽器

    ソプラノ      モーレンハウエル  グラナディラ
    アルト       メック       黒檀
    テナー       メック       柘植
    バス        メック       楓
    グレートバス    キュング      楓
    コントラバス    キュング      楓





大勢のPapalinたちによる多重録音にて、お聴き下さい。 <(_ _)>



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この記事へのコメント

2010年09月25日 08:09
ありがとうございます。
大変勉強になりました。
やはりヘッドホンが必要ですね。
それから多重録音機というのがあるのですね。
私は今のところRadioLine Freeでできるだけのことをしてみたいというところですが、ヘッドホンを使わないので(パソコンにつないで立って演奏すると届きにくいため)どうも合いません。
「カノン」は各パートの動きが細かいところをつぎはぎして先に録音してみましたが、非常に忙しくなってしまって大変でした。
Papalin
2010年09月28日 18:50
◆◆ ヘッドホンを使わないので・・・

Ceciliaさん、ありがとうございます。
Ceciliaさんの多重録音方法は、アナログ録音かデジタル録音かという点以外は、僕の30年前の録音方法と基本的に同じです。ヘッドフォンを使わないということは、最初に録音した音がスピーカーから流れて、重ねるための演奏に、その音も一緒に録音されるというわけですね。(^_^;)

僕はなぜPCのソフトによる多重録音をしないかというと、PCや外付けハードディスクの騒音が気になるからです。ハードウェアの多重録音機も騒音がないわけではないのですが、PCの騒音に比べたら許容範囲です。

> 非常に忙しくなってしまって大変でした

僕は途中から再録音するときには、パンチインという機能を使います。足元のペダルがスイッチになっていて、録音したい箇所の直前でペダルを踏んで演奏し、終了したら再度ペダルを踏んでパンチアウトします。これはとても便利です。

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