◆IL DIVO◆ モーツァルト / オーボエ四重奏曲 ヘ長調 K.370
≪生演奏を公開しています≫
W. A. Mozart / Quattett fur Oboe und Streichtorio K.370
URL : http://papalin.yas.mu/W239/#M202
◇公開日: 2011年8月6日
◇演奏時間: 12分42秒
◇録音年月: 2011年8月 (50歳)
上のアルファベットの曲目名を
クリックして、Papalinの音楽サイト
からお聴き下さい。(視聴?・試聴?)
アゴーギク(agogik)について、考えてみたい。
アゴーギクとは一般には、楽譜に示されていない
微妙なテンポの変化のことを意味する。
それがあることによって、音楽が活き活きとする。(結論)
アゴーギクの話に入る前に、もう一方のデュナーミクについて。
デュナーミクとは、英語で言ったらダイナミックのことで、いわゆる強弱のことである。クレシェンドやディミニュエンド、フォルテだとかピアノだとかいう世界。これは楽器に支配される。例えばチェンバロでは極端なデュナーミクなどつけられない。"極端な"と書いたのは、擬似的に人間にデュナーミクを感じさせる弾き方があるので、全くデュナーミクはつかないとはいえないと思う。
デュナーミクに関しては、リコーダーという楽器はその構造上、オカリナなどと共に、もっともデュナーミクが"つけにくい"楽器だと思う。しかし一方でそのことが私をしてリコーダーに惹きつける。デュナーミクが表現し難いのは、アンプシュアの一部の機能(特に唇)が使えないという理由が大きいと思う。ちなみにアンプシュアとは、管楽器を吹くための口の形およびその機能のことだ。具体的には楽器を吹くときの唇、舌、歯、顎、頬の動きによる音楽表現を指す。しかしながら、チェンバロでデュナーミクが表現できるように、リコーダーでもできなくはない。アーティキュレーションだとか、一つひとつの音の微妙な長さだとか、ひいては運指を工夫することによる物理的な音の強弱によって表現できる。こうしたことを考慮せずに、ただやみくもに、ここはフォルテで強く吹くとか、弱く息を入れてピアノっぽい音を出す・・・というのが、いわゆる素人のリコーダー・アンサンブルだ。プロは全く違う。違わなければプロにはなれないし、プロがもしそういう音楽を表現していたら、それは聴くに堪えないだろう。
あれ? 今回のテーマはデュナーミクではなく、アゴーギクだったっけ。(^_^;)
私の演奏は、このアゴーギクを99%無視した、いわばメトロノームに支配された演奏である。残りの1%は、ここぞというときのアゴーギク(リタルダンド、フェルマータ、音楽的サイレンス、終止)である。私は殆どの曲でメトロノームを指揮者に立てて演奏する。その功罪について考えたい。(実は"功"もあるのだ)
よく、パソコンで楽譜をインプットして演奏させると、全ての音符を"正しく"演奏するのだが、これは聴くに堪えないといわれる。かくいう私もそう感じる。その理由は、不自然だからである。不思議なことだ。楽譜通りに"正しく"演奏すると、音楽に聴こえないのだ。何故だろう。
中世音楽の掘り起こしをされている、まうかめ堂さんが仰っていたことを思い出した。中世の音楽でさえ(!)、イン・テンポでパソコンに演奏させると、全くつまらないと仰る。なので、楽譜をつくることより、音源ファイルをつくることの方が、遥かに大変だと。私も同感である。音楽的なアゴーギクを、デジタルな定量的な数字で音の長さとして表さなければならないのだから、骨の折れる作業に違いない。パソコンで音楽を"表現する"のは、思いのほか大変なのだと思う。
さて、私がメトロノームを指揮者として多重録音して演奏を公開しているという点をもって、私の演奏は"聴くに堪えない"と評価されることがままある。その通りだろう。こうした初期的段階を経て練り上げて構築されたリアルのリコーダー・アンサンブルに勝るはずがない。所詮、紛いものの多重録音である。私が技術的におぼつかないのは仕方あるまい。しかし、自己満足という点を差っ引いても、イン・テンポでのパソコンとの演奏とは少し違うように感じるのだが、それは何故だろう。
一つは、メトロノーム配下にはあるものの、微妙なアゴーギクを使っていることにもその理由はあるのかも知れない。例えば、バロック音楽だったら、たとえメトロノームの指揮であっても、意識的に小節内で微妙にテンポを揺らすことがある。また場合によっては小節をまたいでプラス・マイナスしてアゴーギクを表現することもある。さらにそれはバロック音楽に限らず、そうしたことを意図的に行なうことがある。そして前述したように、アーティキュレーションを工夫する。その辺りが、画一的なメトロノーム音楽とは一線を画している理由だろうか、それとも私が贔屓目な耳で聴いているに過ぎないのだろうか。
例をあげてみよう。
かつて私が多重録音で演奏した"A Song for Japan"。これもメトロノーム指揮者に音楽の骨子を委ねて演奏した。YouTubeにもアップしたのだが、他の人が演奏した動画を聴くことができた。私の多重録音とは違って、アゴーギクが非常に表現されていた。しかし私はその演奏を聴いて、心地よく感じなかった。一体何故だろう。
音程やデュナーミクを抜きにして、アゴーギクにターゲットを絞って考えてみた。その結果気づいたことがあった。その演奏は、最初のソロが終わった後、まずガクッとテンポが落ちるのである。これは意識的にそうしたのだろうか。もしそうだとしたら、それは音楽の趣味の問題として片付けられる。しかしどう見ても(聴いても)、それは意識的なデュナーミクとは思えなかった。なぜなら、テンポを支配するパートがテンポを落としたあとで、他のメンバーが必死にテンポアップを図っていたからである。
さて、私の考え。
まずはどんな曲でも、初回はメトロノームに合わせて演奏してみる。これがいいと自分では思っている。ちなみに、私が IL DIVO Papalin にアップしている音源は、ほとんどがこの段階のものである。多重録音したものを私自身が聴いてみて、その曲をますは知り、そして理解することができる。そしてアゴーギクに関しては、不自然なイン・テンポのところを感じることができる。リアルでのアンサンブルのときや、再びその曲を演奏する機会があれば、そうしたところや、フレーズの変わるところで微妙なアゴーギクの変化をつけたいと考えることができる。しかし、最初からアゴーギク紛いの"テンポの乱れ"は、聴いていて心地よくないということがわかった。
具体例を一つ示そう。
このモーツァルトのオーボエ四重奏曲の第3楽章アレグロ。これもメトロノーム指揮者で演奏したものである。らぶしゅーべるとさんがアレンジして下さった楽譜でいうと、103小節からの5小節(私の演奏時間でいうと、2分19秒から26秒辺り)は、聴いていて私は"不自然だ"と感じる。でも演奏の良し悪しは抜きにして、これがモーツァルトが書いた楽譜をイン・テンポで演奏した場合である。この部分は自然にテンポを落とした方が聴き易いし、聴いていて自然に感じるのではないだろうか。イン・テンポで演奏してみてから"変える"のがいいのではないか、そう思うのである。
もう一つ問題だと思うのは、上記のテクニック的にも難しい部分を、どのテンポで演奏できるかによって、全体のテンポを決めてしまうことである。私が思うのは、その部分だけ、聴いている人にはわからないくらいの微妙なテンポ・ダウンを、音楽的表現をもってして行い、出だしからは快調なテンポ、すなわち演奏者の技量に依存しない、この曲のあるべきテンポで演奏するべきだと思う。難儀なところから全体のテンポを導き出すのは、あまり良い方法ではないと思う。Allegroという曲の躍動感を表現するには、ある程度の物理的なスピードは必要だと思っている。
さてと偉そうに書いてみたものの、数年前にリアルのアンサンブルの機会があったときに、私は私のテンポ感(アゴーギク)の問題点を指摘された。確かにひどかったと思う。いや実際ひどかった。だからそれから目標をもって努力した。まずは現状把握。自分のリズム感のいい加減さを、嫌というほど思い知らされた。そしてこれはリズム音痴だから・・・で片付けてはいけないと思った。一方で、その時のメンバーのリズム感も、実は大したことはないということも、その後の演奏や録音を聴いてわかった。私もみんなも、結構いい加減なのである。
私も含めたかなり多くのアマチュアに見られる傾向として、音符が立て混んでいる箇所で演奏が走り、緩やかな音型のところでテンポが冗長する。一般的にこの傾向があるのだということを心に留めておくと良いと思う。自分にその傾向があるかどうかを確認するには、四分音符=108~120位のダブル・タンギングを使うか使うまいか悩ましいテンポの曲や、同じく124~150位のダブル・タンギングを使わざるを得ない曲を、メトロノームに合わせて演奏してみると、よくわかる(タンギングの速さには個人差がある)。
で、今日の結論。
大事なのは、『意図的に考えられた、淀みない流れの中の自然なアゴーギク』。
そういうことなんだろうな。
楽譜は、らぶしゅーべるとさんから拝借しました。
リコーダー用にアレンジして下さって、とても嬉しいです。
モーツァルトが如何にオーボエが好きだったのか、それを感じ取ることができる曲でした。躍動感に溢れ、軽やかに繊細に跳びはねるオーボエの音が聞こえて来そうな曲だと感じました。ちなみに私の演奏では、左に主としてオーボエ役のアルト・リコーダーが、右には主としてヴァイオリン役のアルト・リコーダーがおります。
アダージョのカデンツァは、らぶしゅーべるとさんが書かれたものを演奏させてもらいました。
Papalinの多重録音で、お聴き下さい。m(_ _)m
曲目
1. Allegro
2. Adagio
3. Allegro
使用楽器 (440Hz)
アルト1 メック オリーブ
アルト2 メック オリーブ
テナー 全音 チェリー
バス ヤマハ メイプル
"""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""
この記事へのコメント
ichiさん、ありがとうございます。
のだめは6巻で挫折したので、単行本も実写も、それ以降は知りません。ひょっとして6巻までに登場してたりして。(^_^;)
でも、黒木くんというオーボエ吹きは覚えていますので、ichiさんの勘というか記憶は、充分に可能性がありますね。(^-^ )