◆IL DIVO◆ 10. クロマティシズム

≪毎日がコンサートの本番です≫

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Die Vier Weltalter Der Musik (Walter Wiora) 10. Chromaticism
URL : http://papalin.yas.mu/W708/#M010

 
  ◇公開日: 2012年12月26日
  ◇演奏時間: 12分27秒
  ◇録音年月: 2012年12月
    上のアルファベットの曲目名をクリックして、
    Papalinの音楽室でお聴き下さい。(視聴・試聴)




第10節の譜例の演奏では、非常に楽しませてもらいました。

第10節の譜例のタイトルは、「クロマティシズム」でした。
クロマティシズム(Chromaticism)とは、半音階(Chromatic scale)を多用した音楽のことを言います。


1曲目で、まず驚きました。私が知っているローマ時代以降の西洋音楽の音階は、ギリシャ時代の音階を元にしたいわゆる教会旋法でした。すなわち、ローマも、その前のギリシャでさえも、半音階を多用した音楽などないと思っていましたので、紀元前2世紀の「デルフィの賛歌」の半音階だらけのメロディに驚いたというわけです。

ギリシャ時代の音階はテトラコードと呼ばれる音階です。4度の音程(ドとファの関係・ソとドの関係)の間に2つの音を挟みますが、私たちに馴染みのあるのがディアトニックと呼ばれる、全音>全音>半音とする音階、すなわちド・レ・ミ・ファ(あるいはソ・ラ・シ・ド)ですね。ところがギリシャの時代には、全半音>半音>半音とする音階(ド・ミ♭・ミ・ファ)がありました。これがクロマティックと呼ばれる音階です。さらに、半音>2全音>全音>半音>2全音(ド・レ♭・ファ・ソ・ラ♭・ド)というペンタトニックがあったとのことです。これはオリンポスの音階とも呼ばれ、デルフィの賛歌ではこの音階を使っているようです。この譜例の曲は、それを更に刻んだ半音>半音という音型が登場しますので、上に書いたクロマティックの音階です。それにしても、こんな音階がギリシャ時代にあったとは、驚きです。

ちょっと脱線しますが、もっとも基本的で、全世界で広く存在した5音階は、ド・レ・ミ・ソ・ラ・(ド)という音階です。日本に古くから伝わる音階でもあり、現代でも演歌ではよく使用される音階です。この音階、実は自然に誕生した音階と言ってもいいかもしれません。というのは、完全五度を繰り返していくとできる音なのです。ド>ソ>レ>ラ>ミで完成します。ちなみに古代ギリシャでは、現代の平均律よりもやや幅の広いこの完全五度の音程を用いていたために、遠く離れたド>・・・>ミの関係はかなり広くなり、最後に取れるミを2オクターヴ下げたミの音と、元々のドの音との関係は最悪だったようです。つまり現代の平均律の広めのドとミの関係よりも更に広く、和音として響かない間柄だったのですね。ですから、古代ギリシャにおこったピタゴラス音律を千年以上に渡って使ってきた中世までの音楽では、長3度は不協和音とされて使われなかったということです。納得ですね。(^^♪



続く2曲目は、私たち日本人にはお馴染みの雅楽のメロディです。特定の曲を指しているものと思われますが、私はそれが何であるかは存じません。私の耳に聞こえる雅楽の特徴の一つとして、音程の間をデジタルに移動せず、アナログに経過させる音楽だということが挙げられます。にわか仕立ての演奏では、東郷さんの演奏する"しちりき"のようななめらかなアナログ演奏はできませんでしたが、それっぽくはなりました。

7世紀に、日本は中央集権的な官僚政治の国となり、701年には、数世紀以前の中国におけると同様に、宮廷に雅楽寮が設立された。雅楽寮の任務は、ある種の伝承音楽を開拓することと、宮廷音楽家の教育および管理を行うことであった。古典的な遺産として今日でも盛んに継承されているこの宮廷音楽が発達したのは、平安時代(794年~1192年)であった。この音楽は素晴らしい上品な音楽という意味で雅楽と呼ばれ、管楽と舞楽のほかに、古い歌や新しい歌を含んでいる。雅楽とは、ダンスを伴奏する音楽という意味である。




次の3曲目も驚きでした。ジェズアルド(Gesualdo)、聞いたことのある人です。1611年に出版された曲集(?)に載っている曲とのことです。確かにクロマティックです。1611年と言えば、私がバロック音楽の祖と思っているカッチーニや、モンテベルディが活躍していた時代です。それまでの調和に満ちたルネサンス音楽から、より人間的な音楽(バロック音楽)が登場してきた時代とはいえ、この譜例を見たときには、こんな音が実際に演奏されていたのかと、目を疑ってしまいました。ジェズアルド、Wikiで検索してみて下さい。「音楽家であり、殺人者」だとか「伯爵」だとか、極めつけは「激しい情感表現に富むマドリガーレや宗教音楽で有名。その半音階的な音楽語法は、その後19世紀末まで現れないものだった。不貞の妻とその愛人を殺害したことで悪名を馳せた。」という解説です。こういう人とその音楽に、私が興味を持たない筈がありません。この譜例の演奏をいますぐ中断して、ジェズアルドの曲の演奏に走りたいくらいです。

さて、単旋律で書かれた譜例の演奏だけでなく、全曲を知りたいと思うのは当然のことでした。数あるIMSLPやChoralWikiで、"おお死よ"という曲を探したのですが、見当たりませんでした。しかし譜例に載っている曲ですから、ある程度は有名な曲に違いありません。これらの楽譜サイトに掲載がないというのは考えにくいことです。そこで、予想を立てました。この曲には違うタイトルがついていて、歌詞の途中で"おお死よ"が登場するのではないか。ということで、探すのを諦めきれない私は、1611年に出版された曲を端から探しました。ChoralWikiにありました! 曲名は"Dolcissima mia vita"で、その中に、譜例の旋律を見つけました。その部分の歌詞は予想通り、"O morire"(おお死よ)でした。こういうところを著書ではもう少し気を回してもらいたいものだなぁなどと、ぶつくさ言いながら、目的の楽譜にちゃんと出会えたことに感謝し、演奏してみました。予想に違わず、ゾクゾクするような曲です! 是非お聴き下さい。



次の4曲目は、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ《悲愴》からの抜粋です。オクターヴで半音ずつ3回上がっていく音型が規則的に2回並んでいる譜面です。なるほど、言われてみれば、これもクロマティックな音型ですね。しかし、この譜例だけを演奏したのでは、何の曲であるかピンと来ないので、少しだけ前後の音やハーモニーを加えてみました。変なところで終わりにしてしまったのが悔やまれます。楽譜は、IMSLPから借用致しました。



さてさて、こんな企画(著書の譜例を全て演奏するという企画)でなければ、生涯演奏することがなかったのではないかというのが、最後の5曲目、ヴァーグナーの作品です。ヴァーグナーは中学生だった頃にそれはそれはよくレコードで聴きました。タンホイザー、ローエングリン、さまよえるオランダ人、とにかく格好よくて大音量の音楽にしびれていた頃です。そんな中で、このトリスタンとイゾルデは、愛の死という曲に代表されるような、まさにヴァーグナーにしか書けないであろう、大掛かりで劇的で、しかも最初は静けさから始まるといった大人の音楽の魅力を感じていました。まさかそれをリコーダー・アンサンブルで演奏することになるとは思ってもみませんでした。おそらく7000曲を越えた IL DIVO Papalin の中で、ヴァーグナーの曲は初めてではないだろうか、とよく考えたら、ローエングリンの中の「結婚行進曲」は演奏していました。(^_^;)

このトリスタンとイゾルデも、譜例を演奏しただけでは、よほどの通でない限り、何の曲であるかわからないでしょう。ですので、こちらも少し長めに演奏してみました。譜例の音は、演奏開始後10秒~41秒くらいで最高音としてテナー・リコーダーが演奏しています。私は序曲をIMSLPの楽譜を借用して途中まで演奏しましたが、譜例の楽譜とは半音ずれていました。なぜでしょうね。


というわけで、この第10節には、十分に楽しませてもらいました。ブログを書くのにも多くの時間を費やしました。それだけ私にとっては価値のある第10節だったということです。



著書の方にも少し触れておかねばなりません。

クロマティシズム、不協和音、転調、その他の急速な発展は、古い和声概念を捨てたり拡大したりすることによって可能となった。これまで音楽は、第一義的に、優美で幸福感に満ちた「ハーモニアス」な調和とみなされてきた。それはマクロコスモスの永遠のハーモニーを反映し、ミクロコスモスの内面的なハーモニー、人間の健康と幸福、ムージカ・フマナ(musica humana)を表現し、実現するためのひとつの手段なのであった。 (中略) 音楽が、野生や病気に対処するものというよりもむしろ、それらを表現するということが一般的になったのは、やっと19世紀になってからであった。



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【 10. クロマティシズム 】



曲目

  1. デルフィの賛歌(紀元前2世紀)
     Delphic Hymn (B.C.2c.)

  2. 雅楽
     Gagaku (Japanese classical music)
  
  3. "おお死よ"(ヴェノーサ公のジェズアルド, 1611年)
     "O morire" from "Dolcissima mia vita" (Carlo Gesualdo, 1611)
  
  4. ピアノ・ソナタ《悲愴》(ベートーヴェン)
     Piano Sonata No.8 in C Minor "Pathetique" Op.13 (L.van Beethoven)
  
  5. 《トリスタンとイゾルデ》(ヴァーグナー)
     "Tristan und Isolde" WWV90 (R.Wagner)


使用楽器 (A=440Hz)

   ソプラノ         モーレンハウエル   グラナディラ
   アルト          メック           オリーヴ
   テナー          全音            チェリー
   バス           ヤマハ          メイプル
   グレートバス      キュング         メイプル
   コントラバス       キュング         メイプル
   サブ・コントラバス   キュング         メイプル (+ BOSS BR-1180)




Papalinの多重録音で、お聴き下さい。m(_ _)m



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この記事へのコメント

ichi
2013年01月03日 22:29
ジェズアルド...よく原曲を見つけましたね。この世界の音楽は興味深い半面、聴く方にとっては物足りなさ、音楽に浸れないやるせなさを感じていましたが、試食ではないお料理をいただいたという感じです。捜した苦労に報いてくれた、期待をうらぎらなかった曲だと思います。世の中は広いですね。
2013年01月04日 15:37
◆◆ 期待をうらぎらなかった曲だと思います

ichiさん、ありがとうございます。
この著書の譜例は、本当に短いのです。作曲者名と曲名がわかれば、ウェブサイトで必死に楽譜を探します。曲名がわからないものでも探し当てた自信がありますから。(^_^;)

ジェズアルド、いいですね。エオリアんさんのサイトにも載っていない作曲者でした。IMSLPに沢山楽譜が掲載されていて、とても嬉しく思います。

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