音程のはなし:長3度
中世までのヨーロッパ人は、どうして長3度(ドとミの関係)を心地よい響き(協和音)と思わなかったのでしょうか?
その理由を明かそうと、とある実験をしてみました。 (^^♪
ヨーロッパ古代から中世までの音律は、現代のような平均律ではなく、ピタゴラス音律でした。あのピタゴラスが発案したという音律について、Wikiから引用してみましょう。
そう、音楽にはこんな重大な問題点があるのです。
一言でいうなら、よく響く5度(ドとソの関係)を繰り返して上側にずっと取っていくと、オクターブがオクターブにならない(はみ出ちゃう)という重大事なのです。違う言い方をしますと、1オクターブには12音ですから、この作業を繰り返すと、元の音に戻るはずなのですが、半音の約1/4分だけ高い音に到達してしまうということです。そしてその差のことをピタゴラス・コンマと呼びます。少し脱線しますけれど、この差を、それぞれの5度音程に均等に振り分けて、純正の響きのする5度音程を狭めたものが、現代人で去る私たちがピアノで耳にする平均律です。古代ギリシャの時代の人々が、既に上記のこと(ピタゴラス・コンマが生じてしまうこと)に気づいていたということですから、スゴイことですね。
さて、実はこの重大事が、冒頭に書いた「長3度は協和音ではない」という古代・中世の人々の耳と深く関係しているのです。それを、自分の耳で聴いて理解できると良いなと考えて、実験してみました。
Wikiの引用の赤い字のところにあるように、G(ソの音)から順番に純正な響きで5度音程を4回取る(G ⇒ D ⇒ A ⇒ E ⇒ B)と、B(シの音、私のナレーションでは、ドイツ語でH:ハーと呼んでいます。)の音が得られます。GとB(H)は同じオクターブの間では長3度(カッコーの鳴き声です)の関係の音になります。そこで、テナー・リコーダーを使って、こんな実験をしてみました。
手順1 Gの音を演奏する。
手順2 心地よく響く、Gの音に対して周波数が2:3のDの音を取る。
手順3 便宜的に、Dの音をオクターブ下げた音を取る。
手順4 手順3の音のみを聴きながら、手順2と同様に、Aの音を取る。
手順5 手順4の音のみを聴きながら、手順2と同様に、Eの音を取る。
手順6 便宜的に、Eの音をオクターブ下げた音を取る。
手順7 手順6の音のみを聴きながら、手順2と同様に、B(H)の音を取る。
こうして得られたB(H)の音と、元々の手順1のGの音は、長3度として、よく響くでしょうか?
ちなみに、手順8として、手順1のGの音を聴きながら、純正の長3度(4:5)のB(H)の音を取ってみました。
そして、手順7で得られたB(H)の音と、手順8で得られたB(H)の音を同時に鳴らしてみました。
これらの実験を、手順に沿って聴いてみましょう。
実験の音源は、こちらで聴けます。
5度音程を繰り返して取ったB(H)の音と、元々のGの音との響きも、美しく響いて聴こえましたか?
ひょっとしたら、手順7と手順8の響きの違いがわからなかったという人もいらっしゃるかと思います。
それは2つの理由が考えられます。
一つの理由は、私の演奏が機械で出した音とは違って、本当に正確な純正5度で演奏していなかったのかも知れません。
もう一つ考えられることは、現代人である私たちが、ピアノの平均律の音に慣らされていて、手順7の音程もあまり違和感を感じなくなっているのかも知れません。平均律の長3度は、手順7の響きにより近いのです。ちょっと横道にそれてしまいますが、私はピアノの音で純正の長3度の音を聴くと、ムズ痒くなります。私も立派に現代病に侵されています。こちらで聴けます。)
話を元に戻しますが、最後の実験で、2つのB(H)の音を同時に鳴らした際に、ワンワンワンという唸りが聴こえませんでしたでしょうか。これが2つの音程の差でして、一秒間に約5回の唸りが聴こえていますね。
では、以上の実験を、理論面から検証してみましょう。
手順1 Gの音程を、便宜的に周波数を391.1Hzとします。
手順2 純正5度は、周波数が1.5倍(2:3)ですから、得られるDの音は、586.7Hzです。
手順3 オクターブ下の音は、周波数が半分なので、293.3Hzです。
手順4 手順2と同様に、得られるAの音は、440Hzです。
手順5 手順2と同様に、得られるEの音は、660Hzです。
手順6 オクターブ下の音は、周波数が半分なので、330Hzです。
手順7 手順2と同様に、得られるB(H)の音は、495Hzです。
さて、純正の長3度の音の周波数の比は4:5なので、G(391.1Hz)に対してB(H)の音は、
5/4倍して、488.9Hzとなります。
2つのB(H)の音、すなわち495Hzの音と488.9Hzの音の差は、6.1Hzです。
この2つの音を同時に鳴らせますと、一秒間に約6回の唸りが生じます。
私の実験、当たらずしも遠からず・・・でした。 (^^♪
それにしても、ヨーロッパ古代・中世の人々の耳、恐るべしです。
その理由を明かそうと、とある実験をしてみました。 (^^♪
ヨーロッパ古代から中世までの音律は、現代のような平均律ではなく、ピタゴラス音律でした。あのピタゴラスが発案したという音律について、Wikiから引用してみましょう。
ピタゴラス音律は3:2の比率の完全五度の音程を積み重ねることに基づいている。例としてDを起点に、上に6回、下に5回、3:2の周波数比の音を得ることを繰り返すと以下のようになる。
E♭ - B♭ - F - C - G - D - A - E - B - F# - C# - G#
得られた11個の音は実際には広い音域に渡っているが、オクターヴ関係にある音には同じ音名が与えられることから、絶対音高を移し変えて、これらを1オクターヴの範囲内にまとめることができる。
この作業を更に拡張しようとすると問題が浮上する。即ちオクターヴの比率は2:1であるが、3/2の冪乗は2/1の冪乗と一致することはないため、この操作を何回繰り返しても互いにオクターヴ関係にある音は得られない。下方に延長した場合以下のようになる。
A♭ - E♭ - B♭ - F - C - G - D - A - E - B - F# - C# - G#
平均律においてはA♭とG♯のような異名同音は実際に全く同じ音であるが、このA♭とG♯には約23.46セント≒1/4半音の差が生じる。この差をピタゴラスコンマと呼ぶ。
したがって、半音階を構成する際に、A♭を省いてE♭からG♯までの12音を用いると、G♯からE♭への五度音程は、3:2の比率による純正な完全五度(約701.96セント)よりピタゴラスコンマ分狭い音程(約678.49セント)になる。この音程の外れた五度による和音は、顕著なうなりを生じるため、狼の吠声に例えてウルフの五度(en:Wolf interval)と呼ばれる。
そう、音楽にはこんな重大な問題点があるのです。
一言でいうなら、よく響く5度(ドとソの関係)を繰り返して上側にずっと取っていくと、オクターブがオクターブにならない(はみ出ちゃう)という重大事なのです。違う言い方をしますと、1オクターブには12音ですから、この作業を繰り返すと、元の音に戻るはずなのですが、半音の約1/4分だけ高い音に到達してしまうということです。そしてその差のことをピタゴラス・コンマと呼びます。少し脱線しますけれど、この差を、それぞれの5度音程に均等に振り分けて、純正の響きのする5度音程を狭めたものが、現代人で去る私たちがピアノで耳にする平均律です。古代ギリシャの時代の人々が、既に上記のこと(ピタゴラス・コンマが生じてしまうこと)に気づいていたということですから、スゴイことですね。
さて、実はこの重大事が、冒頭に書いた「長3度は協和音ではない」という古代・中世の人々の耳と深く関係しているのです。それを、自分の耳で聴いて理解できると良いなと考えて、実験してみました。
Wikiの引用の赤い字のところにあるように、G(ソの音)から順番に純正な響きで5度音程を4回取る(G ⇒ D ⇒ A ⇒ E ⇒ B)と、B(シの音、私のナレーションでは、ドイツ語でH:ハーと呼んでいます。)の音が得られます。GとB(H)は同じオクターブの間では長3度(カッコーの鳴き声です)の関係の音になります。そこで、テナー・リコーダーを使って、こんな実験をしてみました。
手順1 Gの音を演奏する。
手順2 心地よく響く、Gの音に対して周波数が2:3のDの音を取る。
手順3 便宜的に、Dの音をオクターブ下げた音を取る。
手順4 手順3の音のみを聴きながら、手順2と同様に、Aの音を取る。
手順5 手順4の音のみを聴きながら、手順2と同様に、Eの音を取る。
手順6 便宜的に、Eの音をオクターブ下げた音を取る。
手順7 手順6の音のみを聴きながら、手順2と同様に、B(H)の音を取る。
こうして得られたB(H)の音と、元々の手順1のGの音は、長3度として、よく響くでしょうか?
ちなみに、手順8として、手順1のGの音を聴きながら、純正の長3度(4:5)のB(H)の音を取ってみました。
そして、手順7で得られたB(H)の音と、手順8で得られたB(H)の音を同時に鳴らしてみました。
これらの実験を、手順に沿って聴いてみましょう。
実験の音源は、こちらで聴けます。
5度音程を繰り返して取ったB(H)の音と、元々のGの音との響きも、美しく響いて聴こえましたか?
ひょっとしたら、手順7と手順8の響きの違いがわからなかったという人もいらっしゃるかと思います。
それは2つの理由が考えられます。
一つの理由は、私の演奏が機械で出した音とは違って、本当に正確な純正5度で演奏していなかったのかも知れません。
もう一つ考えられることは、現代人である私たちが、ピアノの平均律の音に慣らされていて、手順7の音程もあまり違和感を感じなくなっているのかも知れません。平均律の長3度は、手順7の響きにより近いのです。ちょっと横道にそれてしまいますが、私はピアノの音で純正の長3度の音を聴くと、ムズ痒くなります。私も立派に現代病に侵されています。こちらで聴けます。)
話を元に戻しますが、最後の実験で、2つのB(H)の音を同時に鳴らした際に、ワンワンワンという唸りが聴こえませんでしたでしょうか。これが2つの音程の差でして、一秒間に約5回の唸りが聴こえていますね。
では、以上の実験を、理論面から検証してみましょう。
手順1 Gの音程を、便宜的に周波数を391.1Hzとします。
手順2 純正5度は、周波数が1.5倍(2:3)ですから、得られるDの音は、586.7Hzです。
手順3 オクターブ下の音は、周波数が半分なので、293.3Hzです。
手順4 手順2と同様に、得られるAの音は、440Hzです。
手順5 手順2と同様に、得られるEの音は、660Hzです。
手順6 オクターブ下の音は、周波数が半分なので、330Hzです。
手順7 手順2と同様に、得られるB(H)の音は、495Hzです。
さて、純正の長3度の音の周波数の比は4:5なので、G(391.1Hz)に対してB(H)の音は、
5/4倍して、488.9Hzとなります。
2つのB(H)の音、すなわち495Hzの音と488.9Hzの音の差は、6.1Hzです。
この2つの音を同時に鳴らせますと、一秒間に約6回の唸りが生じます。
私の実験、当たらずしも遠からず・・・でした。 (^^♪
それにしても、ヨーロッパ古代・中世の人々の耳、恐るべしです。
"""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""
この記事へのコメント
ichiさん、ありがとうございます。その通りです。
このお話は、古代のギリシャの学問の中心が、「代数学」「幾何学」「音楽理論」「論理学」だったということの一つの理由を物語っているように思います。数学的に解決したいのに、どこかで辻褄を合わせないと解決できない問題・・・という意味で。
中世の音楽を、平均律のピアノで弾いても、感じがでないかもしれません。ただし、中世の音楽は、周波数比がより単純な、1度・8度・5度・4度を協和音としていましたから、平均律でのそれらと、そんなには違わないでしょう。むしろ、管楽器や弦楽器や声楽で平均律で演奏することは、指南の技です。私にはできません。
ichiさん、ありがとうございます。
それは不思議ですね。でも、ichiさんのように、IL DIVO Papalinの音源をよく耳にされている方であれば、良いにしろ悪いにしろ、そう思われるのも不思議なことではないかも知れませんね。
今回の実験でお気づきかと思いますが、1オクターブ内に12個の音を収めるには、何らかの工夫が必要です。歴史的に、その手段がいろいろあったわけで、古代中世の頃は、ピタゴラス音律やミーントーンが使われ、ルネサンスやバロックの頃は、使用しない調を犠牲として、特定の音と音だけをハモらなくした音律となり、更には、特定な音と音へのしわ寄せを緩和するために、いわゆる古典調律と呼ばれる音律が考えられました。ちなみにバッハの「平均律クラヴィア曲集」の「平均律」は「よく響く」とか「ほどよく調律された」という意味で用いられた言葉です。
「平均律」は、古楽を演奏する人には嫌われる音律ですが、一方では、現代の全ての音楽(調性あり/なしにかかわらず)を奏でるには、もっとも優れた音律でしょう。そして、音叉で音をとるだけで、ピアノを平均律で調律してしまう現代の調律師さんを、私は尊敬しています。
実験でそれなりの結果が得られて、音楽家としてホッとしました。(^_^;)
--久しぶりに音楽を聴く時間が--
平均率の長3度は、もはや協和音に聴こえる(または聴こえざるを得ない)ようになってしまっているかもしれませんが、問題は長10度。これでうなり--不協和を感じる人は少なくないのではないでしょうか。
--フランクに話のできる調律士の友人がいて幸いでしたが、ピアノを調律してもらったあと、例えばCとeだけを鳴らすと、明らかにうなりが聴こえる・・・これを訴えると、友人は、よくあることだと怒りもせずにニッコリと・・・
たしかに、たとえばCとeにさらにGを加えると協和(のように)聴こえるのですね--不思議です
Geminiさん、ありがとうございます。
ホント、お久しぶりですね。沖縄の曲を演奏しながら、どうされているかなぁと思っておりました。
さて、10度でのお話、目からウロコでした。これは理論的にはどう説明できるのかなかと考えていますが、それらしい解答が見つからずにいます。ですが、感覚の問題として片付けてしまうものでもなさそうですね。しかも、そこに平均律の5度が加わると、不快感が減少する・・・それは、混声合唱を経験すると経験的には頷けます。B>T>A>Sのパート順に、C>G>E>Cと歌うと、非常に安定したハーモニーに聴こえます。10度の謎ですね。(^_^;)
蛇足ですが・・・
自然倍音では、仮に C の弦または気柱の長さを1とすると、
C=1、c=C x 1/2、g=C x 1/3、 c'=C x 1/4、e' =C x 1/5 ということで
E の弦または気柱の長さは 0.8、 振動数にして(1/0.8)=1.25倍ですが、
ピタゴラスの音律では完全5度上の音は
弦または気柱の長さを 2/3 にすることなので
C=1、G=C x (2/3)、d=G x (2/3)= 0.444、A=D x (2・3)、e=A x (2/3)
というわけで、E の弦または気柱の長さは 0.790、振動数は1.266倍
と、随分違いますね
平均律ではC=1とc=0.5を等分するので、仔細は省略しますが、
ピタゴラスほどはひどくずれていませんが
E の弦または気柱の長さは 0.793、振動数にすると1.258倍と、少々高め
つまり長三度が少々広め
ちなみに G=0.6674(自然倍音でもピタゴラスでも0.6666....)
と完全五度では幅が少し狭め・・・
ん・・・高めにずれている音に、低めにずれている音を追加すると協和する?
これとは違った問題ですが、合唱(に限らずアンサンブル)で困るのは、
旋律的には導音を高くして主音との幅を狭め(属音と導音がピタゴラス並みに広め)としたほうが終止感が大きいのですが
和声としては、導音を低くしたほうがよくて、無伴奏で続けていると段々ピッチが下がって行く傾向になりますね。
--これは合唱団の腕の問題かもしれませんが(笑)・・・
ながくなりました・・・
Geminiさん、ありがとうございます。
そうでしたか、私は平均律の長3度の音と、ピタゴラスのそれとの比較はしませんでしたが、平均律の方が少しだけですが狭かったというのは意外でした。それだけピタゴラスによる長3度の音程は耐えられないものだったということですね。
> 高めにずれている音に、低めにずれている音を追加すると協和する?
これに関しては理屈があるのでしょうか、私にはわかりません。それでも3和音として聞こえるのですから、新たな倍音間の調和の問題でもなさそうです。
この件とは関係しませんが、私は今回の実験で、5度音程の取り方にも平均律病にかかってしまっているのかなと感じました。平均律で調律されたピアノの5度音程を狭いと感じたことがなかったからです。いい加減な耳ですね。(^_^;)
アカペラで音程が下がっていくのは、素人合唱団ではよくあることですが、理論的には、主音・属音・導音のどれを基準にして音楽を先に進めるかという問題があるため、高度な合唱団では別の意味で下がっていく必然性とどう対処するかについて考えなければならないということですね。純正にハモっている属音を基準にしていけばいいのかなぁ。上がっちゃったら大したもの・・・ということで。(^_^;)
ichiさん、ありがとうございます。
はい、気のせいです。(^_^;)
IL DIVO Papalin のサイトの再構築というか、トップページの下の方に、とりあえずルネサンス期の作曲家のページを続々設けて、従来のページから移行したりしていまして、お返事が遅くなりました。(^_^;)