◆IL DIVO◆ 7: 『楽譜の歴史』 古代と中世の楽譜 【印刷ネウマ譜】
≪毎日がコンサート本番!≫

Music Gallery 1.Music Score in ancient times and the Middle Ages - 7.Printed neumes
URL : http://papalin.yas.mu/W708/#M107
◇公開日: 2013年10月05日
◇演奏時間: 2分53秒
◇録音年月: 2013年10月
上のアルファベットの曲目名をクリックして、
Papalinの音楽室でお聴き下さい。
著書は楽譜の歴史について書かれたものですが、ここで16世紀まで時代は進みます。著書は"ネウマ譜"というキーワードで楽譜を順に掲載していますので、16世紀まで一気に時代が進んでいますが、記譜法そのものに関しては、16世紀に至る前に、音の長さを明確にした定量記譜法や、リズムを明確にするモドゥス・リズム記譜法が登場します。それらについて、著書では次の項である"定量譜"というキーワードで括ったセクションで扱っています。まずは印刷されたネウマ譜ということで読んで聴いて戴きたいと思います。
【12.キリスト昇天の祝日のための聖歌】

16世紀以降、活字による楽譜印刷がおこなわれるようになり、多声楽曲とともに、ネウマ譜によるグレゴリオ聖歌曲集も多数印刷されました。これは16世紀の実物で、黒と赤の2色刷りが美しい印刷譜です。赤の4線が不揃いに乱れているのは、活字の線をいくつも横に並べていることによります。曲はキリスト昇天の祝日のための聖歌です。下から3行目のイントロイトゥス(入祭唱)の冒頭部分が解読譜として添えられています(皆川達夫所蔵)。
印刷譜になりますと、2音や3音を示すための独自の記号は姿を消し、すべて同じ黒い四角形の音符になります。ということは、私も元の楽譜で演奏できるということになります(何と安易な考えでしょう)。したがって解読譜ではなく、元のネウマ印刷譜を見ながら演奏してみました。歌の前にもごもご喋っているのは、2曲掲載されたそれぞれの曲名です。なお、歌ではなくてテナー・リコーダーで演奏した理由は、ネウマ譜を見ながらラテン語の歌詞をつけて歌うということのハードルがやや高かったためで、これも手抜きといえばその通りです、すみません。
さて、この二つの曲の楽譜で、ハ音を示す譜線の位置が異なっていることに気づかれましたでしょうか。おそらく最初の"In Vigilia Afcenfionis."の方は、第3旋法を使い、次の"In Ascensione Domini."の方は、16世紀になって登場する第12旋法が使われています。後者は前者に比べ、より高い音域を使いますので、ハ音記号の位置が逆に下がるのですね。1曲目は低い声の人が、2曲目は高い声の人が活躍する歌なのかも知れません。楽譜の格段の最後の音の次には、次の音を示す記号(Custos)も書かれています。
【13.賛歌「タントゥム・エルゴ(大いなる秘跡)」】

日本最初の印刷楽譜です。16世紀のキリスト教伝来にともなって、日本にヨーロッパ音楽がもたらされることになりました。1605年(慶長10年)には長崎でグレゴリオ聖歌集<サカラメンタ提要>が印刷されました。黒と赤の2色刷りで印刷されています。著書の写真には掲載されているのですが、表紙には<長崎>(Nangasaquij)の字が読めます。曲は賛歌<タントゥム・エルゴ(大いなる秘跡)>で、スペイン、ポルトガル特有のローカル旋律を定量ネウマ譜で記しています(東京 上智大学吉利支丹文庫所蔵)。
この楽譜でお気づきの点が2つあろうかと思います。一つは、ハ音記号の位置が、曲の途中で変わっていることです。1、2、4段目は、第4線にハ音記号が書かれていますが、3行目だけ第3線に書かれています。音域が高くなり、4線なり5線なりの譜線に収まらないようになると、こうして音部記号の位置をずらしました。その理由は2つ前のブログを参照下さい。さて、そうしたときに役立つのが、楽譜の格段の最後の音の右側に書かれた記号(Custos)です。段の終わりに近づいて、段が変わる直前に次の音を知ります。そしてその音がどの譜線上または譜線間に書かれていようと、そこから上下関係を見ながら歌える(演奏できる)のです。この時代の音楽は音の跳躍もせいぜい5度くらいなので、音の上下関係を把握するだけで途切れることなしに演奏し続けることができるのですね。これは、今回、原譜を見て演奏することによって体得した貴重な経験でした。
もう一つは、フラットの印が登場していることです。1、3、4段目の冒頭には、ハ音記号のすぐ右側に、第3間のロ音はいつも半音下げて変ロ音で演奏するようにという"調号"が記載されています。面白いのは、2段目にはその表記がないことです。これは書き忘れたのではなくて、2段目に登場する第3間の音は変ロ音ではなくて(ナチュラルの)ロ音だということです。このことについて、楽譜のお話からはちょっと脱線しますが、私が関連して気づいたことを書きましょう。どうしたら分かりやすく書けるか、ちょっと心配ではありますが・・・。
以前、グイードの左手について書きました。これは、当時の聖歌隊に新しい聖歌を教えるのに、聖歌隊員が音を取りやすくするための工夫でした。現代の言葉を使って表現すると、一つの曲の中で転調する際に、移動ドによる階名読みを駆使する方法と言えるでしょう。著書に掲載された具体例で示すのが一番ですね。
いま注視している楽譜の2段目をご覧下さい。楽譜をクリックして大きく表示してご覧下さいね。第4線がハ音(ドの音)ですから、最初の音はヘ音(ファ)です。これを現代の階名読みでリズム通りに歌いますと、<ファーソラーソファーミファー>となりますが、おそらくグイードは、<ドーレミーデドーシドー>と教えたでしょう。問題は"Et"の歌詞で始まる次のフレーズです。これはおそらく
<ラーシドードレーレドーシドー>と教えたと思います。もしくは同じ音程で歌える<レーミファーファソーソファーミファー>です。こう歌うことによって、ピアノでいえば私たちに最も馴染みのある白鍵の音だけで歌えるので、音が取りやすくなりますよね。これが世にいう中世の時代のソルミゼーション(音符にドレミファなどの文字をあてて楽譜を歌う方法)なのです。ルネサンス初期の作曲家であるオケゲムの作品に"ミサ曲「ミーミ」"という曲がありますが、この"ミーミ"がまさに当時のソルミゼーションを物語っていますので、それに関して書いたブログを併せてお読み戴けたらと思います。
さて、定量ネウマ譜に関しては後のブログで触れることとして、日本最初の西洋音楽の印刷譜は、5線ネウマ譜だったのですね。サカラメンタ提要は、教会用の典礼書で、その中に2色刷の楽譜を載せています。当時の日本が高度な印刷技術を持っていたことが伺えます。第5旋法で書かれたこの曲、黒符定量記譜法の知識があれば、この楽譜はそのまま演奏できます。知識といってもさほど難しいものではないので、私もテナー・リコーダーで演奏してみました。
楽譜は、音楽之友社のISBN4-276-38008-1 C0073を使用しました。
使用楽器
ソプラニーノ キュング ローズウッド
ソプラノ モーレンハウエル グラナディラ
アルト メック オリーヴ
テナー メック ボックスウッド
テナー 全音 チェリー
バス ヤマハ メイプル
グレートバス キュング メイプル
コントラバス キュング メイプル
チェンバロ ギタルラ社 フレミッシュ・タイプ
打楽器 大小ジャンベ、鐘等
Papalinの独奏で、お聴き下さい。m(_ _)m
"""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""
この記事へのコメント