◆IL DIVO◆ 11: 『楽譜の歴史』 定量譜 【初期定量譜】
≪毎日がコンサート本番!≫
Music Gallery 2.Mensural notation - 3.Early Mensural notation (13c.-14c.)
URL : http://papalin.yas.mu/W708/#M113
◇公開日: 2013年10月09日
◇演奏時間: 1分17秒
◇録音年月: 2013年10月
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Papalinの音楽室でお聴き下さい。
13世紀というのは、混沌とした時代だったのではないでしょうか。音楽は学問として、作曲技巧に突き進んだ時代です。音楽史上では後に演奏技巧を追及する時代もやってきますが、それは演奏者としてのヴィルトゥオーソを生みました。一方の作曲家は、どうなんでしょう。私としては大きな疑問符がつきます。
【23.3声のモテトゥス (13世紀 バンベルク写本)】
13世紀後半のモテトゥスの主要な資料のひとつ、バンベルク写本には、器楽合奏のためと推定される楽曲がいくつか収められています。写真の下段の曲は<ヴィエール奏者のための・・・>の語さえ見られます。いずれの曲も3声で、テノール声部は復活祭のための聖歌の一節<イン・セクルム>によるものです。楽譜にははっきりと長い音と短い音との区別がみられます。解読譜として冒頭の部分が添えられています(バンベルク 国立図書館所蔵)。
写真ではよく分からないかも知れませんが、楽譜には小節線のような縦線が書かれています。これは休みを示すもので、いわば色んな長さの休符です。また、音符には、おたまじゃくしの尾っぽのような符尾が書かれています。これらによって、音の長さが明確になりました。
私の音楽室でもお馴染みの、まうかめ堂さんが、13世紀の代表的な(決定的な)記譜法である「フランコ式記譜法」について、丁寧で分かり易い解説を加えて書かれていますので、興味のある方は是非読まれますことをお勧めします。まうかめ堂さんが、まえせつとして書かれている箇所を引用させて戴きます。
これは、ケルンのフランコ Franco de Colonia (13世紀後半)著『計量音楽論』 Ars cantus mensurabilis という論文のラテン語の原文からの翻訳です。書かれたのは1250年以降あるいは1280年ごろと言われています。 内容は、当時の記譜法がかなり具体的に記述されています。それは13世紀の、あるいはアルス・アンティカの記譜法の決定版とも言うべきもので、現在「フランコ式記譜法」と呼ばれているものです。
それのみならず、この書が決定的に重要なのは、「異なる音価は異なる符形で表示する」という(近代記譜法ではあたりまえの)ことを西洋音楽において初めて明確に提示した点にあります。 そして、この書で定式化されたリズムの記述についての考え方は、14世紀のアルス・ノヴァの記譜法、そしてさらにその後2世紀の間(15、16世紀)に用いられた「白符計量記譜法」の下地となっている点で非常に重要です。
ちょっと脱線しますが、「定量記譜法」と「計量記譜法」の言葉について触れておきます。どちらも英語のMensural Notationの訳ですが、以前は「定量記譜法」という訳語が一般的だったようです。著書では一貫して「定量記譜法」と記載されていることを添えておきます。
この楽譜、3つのパートが並べて書かれていることを、ちょっと頭の隅に入れておいて下さい。
解読譜は現代の譜面でいうところの5小節分ですが、2回繰り返して演奏してみました。2回目はすべてのパートをオクターブで重ねて演奏しています。これだけの違いですが、趣は異なりますね。
私ごとですが、元の楽譜を見て演奏しなさいと言われたら、できないことはないと思うのですが、初見では全く歯が立ちません。当時の演奏者は、6つのモドゥスを理解し、それらを表記するルールを頭に入れた上で、この楽譜で演奏したと思われますが、それにしても、他のパートとの合わせを含めて、練習は必要だったと思います。
【24.4声のモテトゥス (13世紀 モンペリエ写本)】
13世紀の4声モテトゥスの楽譜です。声部はそれぞれ分割されて別々に記譜されています。テノールは右端です。上の3つの声部は、明らかに第3モドゥスの動きをとります。長い音(ロンガ)と短い音(ブレヴィス)の区別がはっきりと明示され、定量譜の方向をみせています。13世紀特有のツタのような形の飾り文字が目を引きます(モンペリエ 医科大学図書館所蔵)。
従来は、各声部を上下に並べてスコア状に記載していた楽譜が、ここにきてパート譜のように変わりました。これは計量化がもたらせた一つの効果だと思うのですが、実際に演奏する人にとっては、特に長い曲の場合はパート譜は非常に重要で実用的なものです。この楽譜は音符もゆったり書かれていて、非常に美的です。音楽も4声という複雑なものとなりましたが、実際に演奏してみますと、3声とは違ったエキゾチックな響きさえ感じます。現代譜でいうところの4小節分しか解読譜がないのが残念ですが、努力すれば、元の譜のままで演奏できるでしょう。私はその労を惜しみました。すみません。
【25.3声のモテトゥス (フィリップ・ド・ヴィトリ作曲 ロマン・ド・フォーヴル)】
14世紀初頭に編纂された<ロマン・ド・フォーヴル>の一節です。フィリップ・ド・ヴィトリ(1291-1361)作曲といわれる3声のモテトゥスが写真の左ページ右端から右ページにかけて記譜されています。スコア状ではなく、声部別に上声部、下声部(右ページの下4行目から始まるテノール)、中声部の順に記入されています。ロマンの一場面を示す細密画も楽しいですね(パリ 国立図書館所蔵)。
ヴィトリという人は、音楽史上重要な人物です。14世紀のフランスで栄えた音楽様式のことをアルス・ノーヴァ(Ars nova)と呼びますが、アルス・ノーヴァは、1322年頃にフィリップ・ド・ヴィトリによって書かれた、新しいリズムの分割法と記譜法を論じた音楽理論書『Ars nova(新技法)』にその名が由来しています。ちなみにアルス・アンティカ(Ars antiqua)は、ノーヴァ(新しい)に対するアンティカ(古い)の意味で対比するために、後につけられたものです。その"新しい音楽"では、シンコペーションやイソリズムを用いた高度なリズム技法が発達し、それに伴って記譜法の改良が進みました。
ただ、私はフランスのアルス・ノーヴァからイタリアのトレチェントの時代、13~14世紀の音楽は苦手です。時代もまだ中世ということで、音楽が鑑賞され、奏され、楽しまれるというものではなかった、いわゆる学問としてのものであった最後の時代で、誤解を恐れずに書かせていただくなら、学問としても技巧を負うばかりにヨーロッパの音楽が破たんをした時期でもあるように感じています。当時も、一時代前のアルス・アンティカを擁護する人がいたようですが、私もそんな一人でしょうか。でも、ちゃんと破たんしてくれたから、その反動で感情豊かなルネサンス音楽が生まれたのですから、良しとしましょう。ここで取り上げられたヴィトリの作品は複雑なリズムの使用に至る片鱗は覗かせてはいるものの、メロディには愛らしささえも感じるもので、まだ大丈夫です。
ロマン・ド・フォーヴルは、1310年にフランスの道徳状況を風刺して書かれた『フォーヴェル物語』のことで、数年後に新たなテキストと楽曲が加えられました。その大部分がヴィトリの曲のようです。後に執筆された理論書『アルス・ノヴァ』の中で彼は『フォーヴェル物語』の楽曲に触れ、新しい音価と拍節の関係を導き出しました。2分割を初めて導入し、また2分割あるいは3分割の音価を自由に組合せて作曲する論理体系を作り出しています。
楽譜は、音楽之友社のISBN4-276-38008-1 C0073を使用しました。
使用楽器
ソプラニーノ キュング ローズウッド
ソプラノ モーレンハウエル キンゼカー(メイプル)
ソプラノ モーレンハウエル グラナディラ
ソプラノ フェール パリサンダー
アルト モーレンハウエル キンゼカー(メイプル)
アルト メック オリーヴ
テナー モーレンハウエル キンゼカー(メイプル)
テナー メック ボックスウッド
テナー 全音 チェリー
バス ヤマハ メイプル
グレートバス キュング メイプル
コントラバス キュング メイプル
チェンバロ ギタルラ社 フレミッシュ・タイプ
ギター クラシック・ギター
打楽器 大小ジャンベ、鐘等
Papalinの多重録音で、お聴き下さい。m(_ _)m
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