◆IL DIVO◆ 3: 『楽譜の歴史』 古代と中世の楽譜 【譜線なしネウマ譜】
≪毎日がコンサート本番!≫
Music Gallery 1.Music Score in ancient times and the Middle Ages - 3.Early staffless neumes
URL : http://papalin.yas.mu/W708/#M103
◇公開日: 2013年10月05日
◇演奏時間: 3分34秒
◇録音年月: 2013年10月
上のアルファベットの曲目名をクリックして、
Papalinの音楽室でお聴き下さい。
ごく初期のネウマ譜がたくさん掲載されていまして、とても嬉しく思います。かいつまんで平たく言えば、ローマ時代の初期キリスト教会では、楽譜を必要としませんでした。それは口伝で十分だったからです。しかし、これだと正確に伝わらないという欠点があり、初期のネウマ譜が生まれます。ヨーロッパの各地でローカル・ルールによる記号も生まれ、キリスト教の一つの文化として根付いたわけです。その後、言うなれば方言を統一していこうということになるのですが、それはこの章以降のお話になります。ここでは色んな"方言"を音と共にご覧戴くことになります。
この表はこのシリーズの最初のブログにも掲載しましたが、ここに掲載されるのが妥当でしょう。
9世紀ごろから13世紀にかけて、ネウマは地域によってそれぞれ特有の形をとっていました。この表は、そのような各地域固有のネウマを表したものです。まるで象形文字のような記号は、自然界からデザイン化されたものもあったことでしょう、流れるような線に美しさを感じます。これらは13世紀以降になりますと、四角型ネウマに統一されるようになりました。
【4.聖ガルレン・タイプの楽譜】
11世紀ごろ筆写された聖ガルレン・タイプのネウマ譜です。流れるような線の動きが美しいですね。旋律の上下の動きを示すだけで、正確な音程関係はわかりません。これを解読するためには、同一の歌詞と同一の旋律の動きとを記譜している解読可能な他の資料と校合しなくてはなりません。右の写真の上から12行目の後半の部分の解読譜は、そうした校合の手続きを経たものです。
著書に書かれている通り、正確に解読することは、他の解読可能な資料がないとできないということです。残念ですけれど、仕方のないことです。解読譜例は、"Vindica Domine sanguinem"の3文字からなる11音だけですが、歌いました。
聖ガルデン・タイプとは、ザンクト・ガレン修道院(スイスの北東部、ザンクト・ガレンにある中世以来の歴史を誇る修道院)に収蔵された多くの写本や稀観書の中に登場するネウマ譜のタイプを言うようです。聖ガルデン自身は7世紀の人ですが、彼がアイルランドからやって来て613年に修道院の基礎を築きました。彼にちなんで、町の名前にもなっていくのでした。
【5.フランス・タイプの楽譜】
中央フランスで用いられたフランス・タイプのネウマの実例(パリ 国立図書館所蔵)です。点と眺めの線の組合せが特徴です。曲は、11世紀ごろ筆写された、第1待降節の聖歌で、写真の左ページの最下段の部分の解読譜が添えられています。
この時代の写本は本当に美しいですね。今のように紙を自由に使える時代ではなく、高価で貴重な羊皮紙に書かれたものであり、音楽を奏でるための楽譜という機能だけでなく、それは美術品であり、芸術品です。絵に使える画材も限られていた時代でしょうけれど、それがまた時代を印象付ける色なのですね。赤とおそらく青を基調としたこの写本の絵も素晴らしいです。
さて、この時代の単旋律の音楽の演奏は、もちろん歌うのが一番ですが、器楽で演奏する際には、オクターブ・ユニゾンで重ねるのが雰囲気が出ます。オクターブ以外の音を下手に重ねてしまいますと、時代を誤解しかねません。もちろんそうした意図をもって"アレンジ"することは構わないでしょう。かく言う私も、時代を錯誤するような和音をつけて演奏しているものもありましたので、これは初心に帰ってという感じで演奏しました。
【6.アクイタニア・タイプの楽譜】
南フランスで使用されたアクイタニア・タイプのネウマ(パリ 国立博物館所蔵)で、点をいくつも並べた形が特徴です。その点が音高にしたがって上下の位置に並べられているため、譜線がなくても、音程関係はある程度明らかです。この実例は11世紀に南フランスで筆写されたもので、トロープスを記譜しています。右の写真の左ページ4行目の部分の解読所譜が添えられています。
このアクイタニア・タイプに限らず、線なしネウマ譜の楽譜をそのまま読んで演奏することは私にはできませんので、目はどうしても"絵"に行ってしまいます。アーチ形の弓をもって、膝の上に縦置きした弦楽器を奏でる音楽家あるいは聖職者の絵でしょうか、楽器の形に興味があります。窓のように開けられたところから左の手首を入れて、弦を押さえていますね。何という種類の弦楽器でしょう、後のヴィオールやフィドル、そしてヴァイオリン族に発展していった楽器かもしれません。一方の楽譜の方は、初期の大型コンピュータ用の記憶媒体であった「紙テープ」を連想してしまいました。写真が小さくて、皆さんにはそこまで見えないかも知れませんけれど・・・。
トロープス(tropus)とは、中世後期のカトリック教会においてグレゴリオ聖歌の整備と共に広まった、ミサ曲のキリエ等の歌詞に平行または挿入して付加された補足説明的な歌詞を持つ部分のことを指します。
アクイタニアは、現在のフランス最南西部のアキテーヌを含む広範囲なフランス南西部のことです。
【7.イタリア・タイプの楽譜】
11世紀後半にイタリアのボローニャで筆写されたイタリア・タイプのネウマの実例で、長めの直線、鋭角的な曲線などが特徴です。キリストの昇天の祝日のためのミサ聖歌を記譜しています(ローマ アンジェ理科図書館所蔵)。天国のキリストと、それを仰ぎ見る使徒たちの細密画が印象的です。上から6行目の部分の解読譜が添えられています。
上の方にあるようなルールがあったとしても、当時の人はこれを見ながら歌えたのでしょうか。それとも口伝による歌唱指導(?)があって、その参考資料として用いられていたのでしょうか。このまま歌えと言われても、私には音が取れませんので、歌えそうもありません、端からお手上げです。一方の細密画は皆川さんが仰るように印象的です。当時のボローニャの絵は、こんな感じの表現が一般的だったのでしょうか、キリストを含めた人間たちの顔の表情が独特ですね。眉間に見えるスカラベみたいなものは一体なんでしょう。知識がなくていけません。
当時は今のように、A=440Hzといったような絶対的な音の高さはなかったとは言え、この歌は非常に高い音が使われています。現代の声楽で言うとテナーの音域です。
【8.北スペイン・タイプの楽譜】
北スペイン・タイプのネウマです。特有の曲線と棒とを特徴としています。10世紀のころ筆写され、古いスペイン固有の聖歌(モサラベ聖歌)を記譜しています(レオン 大聖堂文庫所蔵)。キリストの昇天のための聖歌で、写真の上から4行目の部分(細密画の上)の上行下行の動きを解読譜として添えてあります。
スペイン固有のモサラベ聖歌(Canto Mozárabe)、すなわちアラブ風聖歌とはどんな音階または旋法だったのでしょう。YouTube等で聴きますと、グレゴリア聖歌によく似ています。けれど、微妙に異なるのでしょう。というのは、解読譜は2つの音の高さの関係はわかるのですが、絶対的な音高が示されていないのです。さて、私は譜例を演奏するぞ!ということで始めているのですが、ここに来て困りました。グレゴリア聖歌のような明確な旋法があれば、それらを使って演奏する(歌う)ことができるのに・・・、ということで、禁じ手ですけれど、教会旋法を使って歌ってみることにしました。用いた旋法は、第1(ドリア旋法)、第3(フリギア旋法)、第5(リディア旋法)、そして第7(ミクソリディア旋法)です。歌い出す前にもごもご言っているのは、使う旋法です。正解はこの中のどれかなのかも知れませんし、どれでもないかも知れません。
写本の下側の絵の人々、モサラベ聖歌を歌う人たちなのでしょうか、いやそうではなくて、昇天するキリストを見上げる使徒たちなのでしょうね。それにしても豊かなジェスチャ、ラテン系ですね。
楽譜は、音楽之友社のISBN4-276-38008-1 C0073を使用しました。
使用楽器
ソプラニーノ キュング ローズウッド
ソプラノ モーレンハウエル グラナディラ
アルト メック オリーヴ
テナー メック ボックスウッド
テナー 全音 チェリー
バス ヤマハ メイプル
グレートバス キュング メイプル
コントラバス キュング メイプル
チェンバロ ギタルラ社 フレミッシュ・タイプ
打楽器 大小ジャンベ、鐘等
Papalinの多重録音で、お聴き下さい。m(_ _)m
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