◆IL DIVO◆ 五線譜でたどる音楽の歴史 H: アルス・ノーヴァ
≪毎日がコンサート本番!≫

Music History in Examples. From Antiquity to Johann Sebastian Bach (Otto Hamburg) / Ars Nova (14c.)
URL : http://papalin.yas.mu/W711/#M008
◇公開日: 2014年3月17日
◇演奏時間: 13分18秒
◇録音年月: 2014年3月
上のアルファベットの曲目名をクリックして、
Papalinの音楽室でお聴き下さい。
オットー・ハンブルク(Otto Hamburg)著による『五線譜でたどる音楽の歴史(Music History in Examples. From Antiquity to Johann Sebastian Bach)』に掲載された楽譜を用いて演奏しています。
【H: アルス・ノーヴァ】
22. 等リズム・モテット「愛から受ける不幸を/愛は愛するものすべてを/そしてあなた方の心は」
/ ギョーム・ド・マショー
Isorhythmic Motet "S'il estoit nulz / S'amours tous / Et gaudebit"
/ Guillaume de Machaut (c1300-1377)
等リズムの原理は、コーロル(Color)とターレア(Talea)の区別を前提として成り立っている。理論家たちは、旋律型の反復をコーロル、リズム型(節)の反復をターレアと言っているわけだが、ここに取り上げた曲では、テーノルに2つのコーロルが次のように見分けられる。コーロルIは第1小節から第16小節の終わりまで、コーロルIIは第17小節から第33小節の終わりまで。コーロルIIは、コーロルIと同じ旋律進行をしているけれども、リズム方式が違っている。ところでターレアに関して言えば、コーロルIとIIには、それぞれターレア(5小節単位)が3つずつある。コーロルIとIIの3つのターレアは、同じようにそれぞれ5小節単位で同じリズム方式を示しているが、コーロルの場合とは反対にいずれも旋律的に異なっている。最後に、この曲の場合はコーロルIもIIもターレアの1部分(第4?)だけで終わっているが、コーロルIの最後の小節はいわゆるランディーニ終止、コーロルIIの最初の小節はいわゆるマショー終止になっていることを付言しておく。
アルス・ノーヴァの特徴として、コーロルとターレアについて分析されていて、とても分かりやすいのですが、私にはむしろ、1曲の中にランディーニ終止とマショー終止が登場することの方に心が躍ってしまいます。両方用いたのは、作曲者であるマショーの気遣いなのでしょうか。
23. バラード「私はいとしい女(ひと)を」 / ギョーム・ド・マショー
Ballade "Je puis trop bien" / Guillaume de Machaut (c1300-1377)
アルス・ノーヴァ時代のポロフォニック・バラードは、トルヴェールのモノフォニック・バラード(譜例7)と同様に、a-a-b形式である。マショーはこの分野の大家であった。ここに取り上げたフランス語の歌詞が付いている3声のバラードは、様式的には音の動きの多い、軽快な曲である。楽器だけで演奏することも出来よう。
全体をオクターブ上げて以前にも演奏しています。原音の方が落ち着きます。マショーは通常文によるミサ曲全曲を初めて書いた(残した)作曲家としてその名を馳せていますが、本当はこうしたバラードの大家だったのですね。
24. ヴィルレ「たとえ貴女(あなた)が遠くにいても」 / ギョーム・ド・マショー
Virelai "Comment qu'a moy" / Guillaume de Machaut (c1300-1377)
マショーは、ポリフォニーの作品の他にモノフォニーの曲も作曲した。その一例として、ここではヴィルレ(virelai)を取り上げた。ヴィルレという名称は、古いフランス語のvirer(旋回する)と、lai(歌)からできたものであるが、このことから、ヴィルレが舞踏曲であったことがわかる。蚊は5つの詩節から成り立ち、最初と最後の詩節は、歌詞も旋律も必ず同じである。第4番目の詩節は、最初と最後の詩節と同じ旋律に合わせて歌われるが、歌詞が違う。以上の詩節の間に、もう一つ別の旋律に合わせて歌われる詩篇が2つ入っている。だからヴィルレの旋律の形式を図式化すると、A-b-b-a-Aとなる。
バッハ以前の高々100曲ほどの音楽を紹介している本で、3曲も取り上げられるというのは、やはりマショーだからでしょう。ヨーロッパ中世を代表する作曲家を一人挙げよということになれば、やはり彼なのでしょうね。マショーの作品はかなりの数を演奏したつもりでいましたが、こうしたモノフォニーのヴィルレとは初めて出会いました。そういうことが嬉しいのです。A-b-b-a-Aという重要なルールを侵して演奏してしまいました。正しい構成で録音し直す予定でいます。(済)
25. マドリガーレ「ディアーナの恋人が」 /
Madrigale "Non al su' amante" / Jacopo da Bologna (?-c1350)
イタリアではフランスのアルス・ノーヴァと同じ時期に、一般にイタリアのアルス・ノーヴァとか、あるいはトレチェント(14世紀の意)の音楽と言われるひとつの音楽の発展が見られる。トレチェントの世俗音楽の代表的形式は、マドリガーレ(madrigale, 譜例25)、バッラータ(ballata, 譜例26)、それにカッチャ(caccia, 譜例27)である。
マドリガーレは、2部構成の2声または3声の楽曲である。3行で構成された詩節が2つないし3つ同じ旋律で歌われ、その後に、リトルネッロつまり2行で構成された詩節がもうひとつ別の旋律で歌われる。ヤーコポ・ダ・ボローニャの作品、それもことに2声のマドリガーレ--- ここに取り上げたのはペトラルカの詩によるマドリガーレ---には、様式の変化が明らかに認められる。それより前の創作期の曲には、オクターブや5度の並進行があちこちに認められ、旋律の流れもしばしば休止符で中断されているが、もっと成熟した様式のもの(ここに取り上げた曲)になると、両声部ともに旋律的にもリズム的にも独立性が見られるのである。彼の作品、ことに「スクァルチャルーピ写本」(Squarcialupo Codex)かなの彼の作品が当時愛好されていたことは、その中の作品が8つにも及ぶ様々な写本中に出てくることからもわかる。以上のような14世紀のマドリガーレは、16世紀のマドリガーレ(譜例48)に対応するものではない。
それほど音程の離れていない2声によるこの作品は、素朴さもあり、聴きようによっては華やかさもあり、不思議な感じのする作品です。オクターブや5度の進行は一切なりを潜めています。
26. バッラータ「私は巡礼」 / ジョヴァンニ・ダ・フィレンツェ
Ballata "Io son un pellegrin" / Giovanni da Florentia (?-c1350)
トレチェント時代にはなによりもまずマドリガーレが作曲されたが、後代の作曲家たちは、バッラータの方に重点を移した。ことにランディーニ(Landini, c.1325-97)の作品は、全154曲中141曲がバッラータである。バッラータはもともとラウダ(譜例11)が発展してスタンツァ(stanza)とリプレーザ(ripresa)---合唱指導者+踊り手たちの合唱---を伴なう輪舞となったものなのだが(13世紀に、ヴィルレ⇒バッラータ⇒ラウダの系譜があったとも考えられる)、その後、フランスのヴィルレと新様式のイタリアのカンツォーネの影響を受けて、形式と用途が変わり、詩的にも音楽的にも極めて芸術的香りの高いものとなる。「私は巡礼」は、現在も筆写不明の若干の史料中に見られ、多くの学者たちは、ジョヴァンニ・ダ・フィレンツェ(別名 ダ・カーシャ Giovanni da Firenze [da Cascia], ?-c.1350)の作とみなしていたが、ランディーニの作らしいと考えている学者もいる。
以前読んで、その中に掲載された譜例を演奏した、皆川達夫さんによる『楽譜の歴史』の本の中では、曲の冒頭部分しか譜例として掲載されていなかった曲が、こうして最後まで、かつ譜例24の演奏で反省をしましたので、繰り返しのルールを正しく演奏できて良かったです。
27. カッチャ「ああ、すばらしい日の夜が明けるやいなや」 / ゲラルデッロ・ダ・フィレンツェ
Caccia "O tosto che l'alba" / Gherardello da Firenze (?-c1360)
フランスのシャス(chace, 狩)と、イタリアのカッチャ(caccia, 狩)は、共に14世紀に発生したものだが、その名称の意味は、歌詞からも音楽からもわかる(必ずしも歌詞からはわからない)。歌詞は、滑稽な、時には淫らなことを話題にしていることも多いが、狩や釣、市場の光景などをリアルに叙述し、一方、音楽は模倣の技法を利用して、火急、騒動、人込みなどの有様を粟原している。音楽の構造は様々であるが、ここに取り上げたのは、当時イタリアでは普通であった3声の曲である。楽器で奏される別個の独立したバス声部の上で、2つの上声がカノンを構成しながら進んでいる。
終わりに短めに付いているリトルネッロが、曲全体を引き締め、いかにも火急的なカッチャという感じにしています。オクターブ低い音でカノンを追いかけるパートをバス・リコーダーで演奏しましたが、もう少し音量を上げた方が分かりやすかったですね。
余談ですが、この章で、この時代の音楽の特徴的なリズム、ホケトゥスについて何も触れられていないことと、イタリアのトレチェント音楽がアルス・ノーヴァの章立ての中で取り上げられていたのが意外でした。
楽譜は、アカデミア・ミュージックから1982年に徳永隆男・戸口幸策による共訳で1982年に出版された
『五線譜でたどる音楽の歴史』を使いました。
使用楽器
ソプラノ モーレンハウエル キンゼカー
アルト モーレンハウエル キンゼカー
テナー モーレンハウエル キンゼカー
バス モーレンハウエル キンゼカー
バス ヤマハ メイプル
グレートバス キュング メイプル
コントラバス キュング メイプル
Papalinの多重録音で、お聴き下さい。m(_ _)m
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